横浜市 よこはま乳がん

これから薬物療法・放射線治療を受ける方へ

抗がん剤治療について

他の臓器への明らかな転移(遠隔転移)がない乳がんと診断された患者さんが、最初に受ける治療(初期治療)としての抗がん剤治療は、乳がんの広がりに応じて、手術前もしくは手術後(再発を予防するため)に、乳がんを完全に治すこと(治癒)や乳がんの再発を抑えてより長い生存期間を目指すために用いられます。

薬物療法の目的

非浸潤がん(しこりがない、ごく早期の乳がん)の場合、がん細胞は乳管内だけにとどまっているため、ほとんどが手術や放射線治療などの局所治療で治癒します。

しかし、浸潤がん(しこりがある、一般的な乳がん)の場合、発見・診断された時点でがん細胞が血液やリンパの流れに乗って、他の場所に転移している可能性があります。画像検査でみつからないような小さな転移を微小転移といい、微小転移が数か月から数年かけて大きくなると、乳がんが再発したと診断されます。手術前後に薬物療法を行う目的は、どこかに潜んでいる可能性のある微小転移を根絶させることです。

薬物療法再発率

※レジメン=薬物療法を行う上で、薬剤の用量や用法、治療期間を明記した治療計画のこと

引用:乳腺腫瘍学第4版
薬物療法には、ホルモン療法と化学療法(抗がん剤)・分子標的治療があります。

どんな人に抗がん剤治療が必要か

抗がん剤治療が必要かどうかは、乳がんの性質(タイプ)と進行度などの再発リスクで決定します。乳がんの性質は「サブタイプ、ステージについて」をご覧ください。HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんは多くの場合抗がん剤治療が必要になります。ルミナールタイプ乳がんではホルモン療法を行いますが、再発リスクに応じて、抗がん剤治療も必要になることがあります。再発リスクを予測する因子は、しこりの大きさ、リンパ節転移の状況、がんの増殖能などです。再発予防のための抗がん剤治療は、本来であれば「再発リスクの高い人」と「再発リスクの低い人」を特定して、再発リスクの高い人にだけ行うのが理想的です。患者さんの乳がんの細胞を遺伝子レベルで解析し、抗がん剤の有効性を判断する検査(Oncotype Dx【オンコタイプDX】)が有効なことがあります。検査結果で再発リスクが予測でき、抗がん薬治療の必要性を判断する材料になります。

リスクスコア、年齢によって化学療法によるメリットの幅が異なる

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  スコア 0~10 スコア 11~15 スコア 16~20 スコア 21~25 スコア 26~100
50歳以上 化学療法上乗せ効果なし メリットあり
50歳未満 化学療法上乗せ効果なし 1.6%メリット 6.5%メリット メリットあり
抗がん剤治療のイメージ

どんな治療か

抗がん剤治療で使う薬は飲み薬と点滴にわかれます。乳がんの抗がん剤治療のほとんどは外来通院で行います。点滴による治療では、腕などの静脈に注射針をさして、薬を投与します。点滴の回数は、初期治療の手術前や手術後の場合には3か月~1年(3週間毎の抗がん剤投与を繰り返すなど)、遠隔転移(別の臓器への転移)を有するの場合には、より長期にわたり点滴による治療が必要になる場合があります。

HER2陽性乳がんには、タキサン系薬剤と併用して抗HER2薬(トラスツズマブ、ペルツズマブ)を計1年間投与します。術前化学療法を行ってがんが消滅しなかった場合、薬物抗体複合体のカドサイラを約9か月間投与します。

またトリプルネガティブ乳がんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬(ペンブロリズマブ)と抗がん剤の併用をすることがあります。

HER2陰性乳がんで、再発リスクの高い方には、抗がん剤治療終了後にオラパリブ(リムパーザ®)を投与することがあります。BRCA遺伝学的検査を行い、病的バリアントを保有している方が適応になります。(「遺伝について」をあわせてご参照ください)

主な術前・術後化学療法

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化学療法 薬品名 投与間隔 投与回数 主な副作用
AC療法または
EC療法
ドキソルビシン(A)
シクロホスファミド(C)または
エピルビシン(E)+シクロホスファミド
3週毎
(*2週毎)
4回 悪心・嘔吐、口内炎、脱毛、骨髄抑制
心毒性など
TC療法 ドセタキセル(T)
シクロホスファミド(C)
3週毎 4回 過敏反応、関節痛・筋肉痛、皮疹、脱毛、
骨髄抑制、倦怠感、浮腫など
ドセタキセル ドセタキセル 3週毎 4回 過敏反応、関節痛・筋肉痛、皮疹、脱毛、
骨髄抑制、倦怠感、浮腫など
パクリタキセル パクリタキセル 1週毎
(*2週毎)
毎週投与
は12回
(2週投与なら4回)
過敏反応、筋肉痛・関節痛、倦怠感、
末梢神経障害(しびれ)、脱毛、
骨髄抑制など
*従来3週毎の点滴を、2週毎に短縮して行うこともあります。(Dose dense療法)
抗HER2治療
トラスツズマブ
(+ペルツズマブ)
トラスツズマブ
(+ペルツズマブ
3週毎 18回
(一部タキサンと併用、
その後は単独投与)
インフュージョンリアクション、心筋障害、皮疹・下痢(ペルツズマブ)
カドサイラ カドサイラ 3週毎 術後14回
(術前化学療法後に腫瘍の残存があった場合)
血小板減少、肝機能障害
 
免疫チェックポイント阻害薬
ペンブロリズマブ ペンブロリズマブ 3週毎 術前化学療法と併用8回
術後は単独で9回投与
併用する化学療法の副作用に加えて、免疫関連有害事象など

引用:2021年 Patient Navigator 養成講座資料(薬物療法に対するケア:講師 縄田修一)
乳癌薬物療法副作用マネジメント(Medical view社)

副作用の時期、対策について

抗がん剤の主な副作用には、吐き気・嘔吐や脱毛、骨髄抑制などがありますが、期間中ずっとつらいわけではなく、それぞれの副作用がでやすい時期があります。

副作用は、がん細胞だけでなく、正常な細胞も攻撃した結果起こります。使用する薬剤や患者さんによって、副作用の程度は異なります。副作用自体は効果のバロメーターにはなりません(副作用がないから、抗がん剤の効果がないわけではありません)。
アピアランスケア(外見の変化への対策)は「アピアランスケアについて」をご参照ください。

患者さんの副作用発現期間の目安

 

吐き気・嘔吐:抗がん剤投与直後(急性嘔吐)や数日間(遅発性嘔吐)起こったりします。様々な制吐剤がありますので、無理に我慢せず、医療スタッフに相談しましょう。

悪心・嘔吐の分類

急性悪心・嘔吐(acute emesis)
◆投与後24時間以内(投与後数分から数時間)に発現遅発性
遅発性悪心・嘔吐(delayed emesis)
◆投与後24~48時間頃より発現
◆1~7日ほど症状は続く
予測性悪心・嘔吐(anticipatory emesis)
◆前回の抗がん剤投与時にコントロール不十分であった場合、次の投与時より発現。初回でも不安が強い場合に発現することがある。

 

骨髄抑制:抗がん剤の影響により骨髄の働きが抑えられ、血液の中の白血球、赤血球、血小板が低下します。その結果、感染しやすい状態、貧血症状、出血しやすくなることがあります。白血球減少(特に好中球減少)は抗がん剤の種類にもよりますが、抗がん剤投与から7~14日後付近で最も低下します。好中球の数を増やす薬を併用することもあります。

抗がん剤の影響により骨髄の働き

引用:2021年 Patient Navigator 養成講座資料(薬物療法に対するケア:講師 縄田修一)

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